akamano’s diary

はてなダイアリーから引っ越した放置ブログです

BRM1008中部1000km中部一周レポート(3日目)

(2日目から続く)

3日目(PC8〜PC10)

3日目のつぶやき


PC8高山〜PC9伊那

PC8を出発したのが7:30位だったのだが、PC8すぐそばの「ひだまりの湯」は7:00から開いているので休憩・仮眠しようと思えばちょうどいい。ブルベの参加車と思われる自転車も2台停まっていた。駐車場まで行ってかなり悩んだのだが、区間距離110kmで制限時間までは約10時間(600kmを超えた距離に関しては、平均時速12km/hで計算されるのだそうだ)、それだけ考えると割と余裕なのだが、獲得標高が2000mあるし、いつどこで仮眠が必要になるか分からないので、とりあえず目が覚めているうちはこのまま進んでしまうことにする。貧脚ブルベでは時間のバランスを考えるのが難しい。

まず高山駅周辺の市街地を通過。なんか当日はお祭りが予定されていたそうでたしかにそんな雰囲気だったのだが、まだ時間が早いこともありとくに問題なく通過できた。

登りが急になるとさすがに暑くなってきたので、アームウォーマーとシューズカバーを外す。その間に3台列車に抜かれた。

最初のピーク、飛騨ふるさとトンネルを抜けると天気が一気に良くなっていた。山の向こうとこっちでこうも雲量が違うものか。



下りきってしばらく走った後、そういえばこの先数十キロコンビニ無しと注意されていたのを思い出し、ドリンクが心許なかったので自販機を発見し次第補給。80円の妙に安いオレンジサイダーというのを発見したので試しに飲んでみたら、ファンタオレンジと同じ味がした。

やはり微妙に眠気が抜けないので、快適そうなバス停に釣られて停車。座布団ありだが、さすがに9時を過ぎていたので人が来たら気まずいと思い横にはならなかった。座ったまま寝たふり。このあたりで、スタッフ車から声をかけられたような気がする。(記憶があいまい)あとチョコレートを補給。

その後きつい坂道を登ってトンネルを越えると秋神ダム。このあたりから山と川に囲まれた風光明媚な風景になってくる。天気も良く、今回のブルベで初めてツーリング気分になる。坂はきついが楽しい。やはり自転車はこうでなくては……。紅葉の頃に来ればさぞかしきれいであろう。


長い権現トンネルを抜け朝日ダム、高根第1ダム、高根第2ダムと段階的に標高が上がっていく。この標高差で水力発電しているのだな。


途中、GPSのバッテリー警告が出たので電池交換。

高根乗鞍湖の周囲は車のすれ違いが困難なトンネルが数カ所にある。

水面に浮かんでいるボートはWikipediaの高根第一ダムの写真にも写っているようだが、何なんだろう…


高根大橋手前の景色が良かったので記念撮影。このすぐ先の分岐を左に行くと野麦峠だ。

このあたりでスタッフ(@maruyoyoさんのようだった)の人が写真を撮っていた。呼びかけられたので「シークレット(ポイント)ですか?」と聞いたらそうではないとのこと。

高根乗鞍湖を過ぎると急勾配の登りになる。8km/hでえっちらおっちら登る。途中何人かを抜いたり抜かれたりしたような気がする。数百キロを走ってきて、まだ同じようなところを走って抜いたり抜かれたりするというのも、考えてみると不思議だ。

途中で勾配が緩くなるが、峠への登りはまたきつくなる。

そしてここが岐阜県と長野県の県境、長峰峠。長野県まで来たのか、と感慨もひとしおである。

野川まで下って再び登り。このあたりで、どうも意識がおかしくなり始める。居眠りして落車しかける、というわけではないのだが、「思考が変な方向にいって、自分が何をやっているのか分からなくなる」というあの感覚である。BRM1000kmを走っている最中なのだが、そうではない何か別のことをやっているような感覚になる。昼間に、しかも晴れて絶好のコンディションなのにこの感覚が出てくるのは初めての経験ではないだろうか?

自販機があったので休憩。何を飲んだかよく覚えていないが(多分コーラ)、向かいの食事処に大型の観光バスが入っておばさん達がたくさん降りてきたのは覚えている。こんなへんぴなところでも、今では足腰が弱くなってもバスでいくらでも来られるんだなあ、と思った。あと、商店の人に話しかけられてたような覚えがある。

野川を渡って、久蔵峠へのわりときつい登り。登り切った峠には標識があるだけだった。


続く地蔵峠まではアップダウンが多いので、できるだけ下りで得た慣性を無駄にしないように注意して走る。天気と景色は相変わらず最高。

しかし、意識が…。途中しばし路肩でうずくまる。やはり、頭の中がなにかおかしくなっている。ブルベやってることを半分忘れかけている。

国道361号から分かれて地蔵峠に向かう所で、観光案内所?とトイレがあったので休憩。一度通り過ぎてしまったのだが思い直して戻った。ちょうど個室に入りたいと思っていたところだったので渡りに船だったのだ。また、多目的の広いトイレがあったので、右足付け根の前側がなぜか摩擦で痛くなってしまっていたので様子を見る。どうも、ORTLIEBの防水マネーベルトを腰につけていたのがよくなかったような気がする。やはり走るときは腰回りに余計な物をつけてはダメだ。反省して肩からたすき掛けする。

痛くなった部分には、持参してきたアソスのシャーミークリームを塗ってみた(試供品ボトルなので小さいのがいい)。そしたら、効果覿面!ほとんど痛みが引いてくれた。やはり皮膚の摩擦というのは長距離走るとバカにならないということがよく分かる。シャーミークリームはブルベに必須。

パンとチョコレートを補給し、気分的にも痛みと便意が消えたので多少復活して地蔵峠に向かう。

地蔵峠入り口。どうも、かなりの斜度のつづら折りが延々と上まで続く狭い林道のようだ。雰囲気としては、筑波にある不動峠和田峠に近い。3kmと距離もそれらと近い。地元の有名なヒルクライムのタイムトライアルスポットになっていそうな感じだ。(実際には近くにそんな多く自転車乗りがいるとは思えないが…)

途中、展望台ポイントがあったのだが調子よくグイグイ登れていたのでスルー。休憩している人がいた。写真くらい撮っておけばよかったかも。

地蔵峠。そのものずばりのオブジェ(などと書くと罰当たりか)があった。後から2人、参加者の人が到着して写真を撮っていた。僕はツイッターに書き込んだりしていたので最後に出発。いい峠だった。

次は標高1300mオーバーから800m位まで一気に下る。といっても、下り勾配が急な区間はワインディングロードで、直線区間はあまり勾配がなく結局スピードはあまり出ない。高々40km/hくらい。

国道361号から国道19号へは、何故か直接曲がらず下をくぐって住宅街の激坂を経由。

中央本線沿いの国道19号は、路側帯が狭く交通量は多いが、歩道は歩道で目の粗いグレーチングが多く、いずれにしても走るのにえらく疲れる。そしてまた変な意識の乱れと眠気…。途中たまらず休憩や補給食を腹に入れて何とかしのぐ。車道側でうっかり居眠りしたらマジで死にかねない場所である。昼なのに。

右折し再度国道361号をヨタヨタ登っているあたりで、いよいよもって意識が混濁し自分が何をやってるのか分からなくなってくる。昼なのに。どうも、体温が上がるとおかしくなるような気がする。

なんとか姥神トンネル入り口までたどり着くと、なにやらループ橋めいたものが見えてくる。GPSルートの妙なぐねぐねの正体はこれか。ちょっと見るとなんだかよくわからんが登りと下りでトンネルが二階建てになってるのか?と思ったがどうもそうではないようだ。本当にこんなところに自転車が入っていいのかどうか、と不安になるが衛星(ホシとよむ)の導きのままに突入。歩行者注意とかいてある看板がある。自転車どころか、歩行者も通るのか……。

出口付近で歩道を走っている参加者を抜いた。

姥神トンネル、続く羽淵トンネル、番所トンネルまでは上り勾配であり、先ほどよりは緩やかになっているとはいえ、精々15km/hしか出ない。その横を大型車が通り過ぎていくのは気持ちのいいものではない。

番所トンネルを抜けるとやっと平地になるが、疲れているので速度はそのままダラダラと走る。

しかし権兵衛トンネルに突入すると下り勾配で、軽く回すだけで速度は上がり始める。漕げばそれなりにスピードが出そうだったが、交通量の激しいトンネルの中で速度を出すには頭の状態に自信がなかったので、40km/h程度を上限としてブレーキをかけつつ走る。コワイコワイ……。後で聞いたところによると、このトンネルの中で70km/h?だったか出した参加者もいるらしい。ランドヌール恐るべし…

4.4kmの長いトンネルを抜けると、今度は橋の連続。そして目の前に広がる盆地の絶景。

ここまできて、やっと気分が楽になった。風景をカメラに収めつつ、標高差300m弱を50〜60km/hで爽快ダウンヒル。ただし一部路面が悪かったり、あまつさえ工事で舗装が切れてたりしてかなり危険だったが、風で体が冷えているからか、あるいは風景に癒されているのか、意識の混濁はなかった。

後から調べてみると、姥神トンネルから権兵衛トンネルまでの一連のトンネル開通は、300年来の悲願であったのだという。(参考サイト)。確かにこれだけ長距離のトンネルとなると、開通前はさぞかし厳しい峠道だったのであろう。また、真新しい感じを確かに受けた。(特に権兵衛トンネル) こういう歴史は事前に調べておくと感慨もひとしおなのだろうが、大体ブルベ前は準備不足で時間が無いことが多いのだ。

そして、PC9に到着。時刻15:30、走行距離はちょうど800km位。

ツイッターにも書いているが、意識は明瞭に思えるのに、ふと気がつくと現実と相反することを考えているような、ふわふわした感覚。

周囲が明るいのでかろうじて正気を保っているのだろうか。徹夜明けに近いと言えば近いが、程度はかなり違う。そりゃまあ、丸二晩ろくに寝ないで走っているのだから、当たり前なのかもしれないが。

とりあえずカロリー補給。

また、このタイミングで再度チェーンに給油。

ブルベ参加者ではないローディーのおじさんが同じコンビニで補給しており、「自転車だけで何百キロも走るなんてエコでいいですねえ」「いやあ、ライトの乾電池は大量に消費するし、コンビニ飯ばかりで金もかかりますよ」なんて話をした。これも一期一会の出会いなんだなあ。

この区間は天気が回復し、また景色も素晴らしく、獲得標高は2000mと、次の区間に次いで厳しい山岳だったが、今回のブルベでは最も楽しめた区間だった。自転車というのは本当にメンタルな乗り物だなあ、と実感した。

そして、次の区間は、山岳で深夜、そして睡眠不足に加えて膝の痛みも加わる地獄区間となるのであった……

PC9伊那からPC10中津川

PC9では(でも)結局1時間近く長居をしてしまい、出発は16:20過ぎ。まだ日は沈んでいないものの、大分影が長くなっている。出だしの下りでスピードを乗せるがすぐに登りになる。どうやら、細かく流れる川を何本も横切る道で、そのたびにアップダウンがあるようだ。これは辛い。

そして途中から、昨晩以来痛みのあった左膝がいよいよ痛くなってきてしまった。気分のいい山岳区間で酷使してしまったか(酷使とはいえ使わなければここまで走ってこられなかったのだが…)。1000kmのうちあと200kmというとなんだかあと少しのような気もするが、そうはいっても200kmである。しかも次の区間は獲得標高だけ見るとさっきの区間とほぼ同じ程度ある。本当にゴールまでたどり着けるのだろうかとかなり真剣に悩む。

とりあえず、いつだかのブルベでは膝が痛くなった時にバンテリンとかいうシップを買ったら効いた記憶があったので、薬局があったらシップを買おうと思いつつ必死でペダルを漕ぐ。左足の引き足を使うときに痛みが走るので、右足を踏み込むときは出来るだけ左足を脱力させるように気を遣う。ちょっとした登りでも10km/hを維持するのが難しくなってしまった。

運良く、十数キロ走ったところで大型のドラッグストアをコース上に見つけることが出来たので駆け込む。14枚入りというのしか無かったので、そんなに要らないのだが仕方なく購入。ついでに目覚ましの足しになればと思って目薬も買った(のだが、結局使わなかった)。

ドラッグストアの駐車場で膝の裏側に2枚シップを貼り、また日が沈んだタイミングだったのでライトの電池を全交換。再び出発。停まったのは十数分だったが、妙に時間を無駄にしてしまったような気がして焦る。

そして、弱った頭の中では必死にPCのクローズ時刻と必要な平均速度の計算がぐるぐると回り始める……

ドラッグストアを出た時点で17:30位、次のPCまでの距離はおおむね95km、クローズ時刻は3:00前。9時間半で95kmなのでまあ10km/hでも間に合う計算ではある。仮に登りで10km/h以下しか出せなかったとしても、下りでそれ以上出せれば間に合う。とにかく、飯田峠の本格的な登りに入る前に、可能な限り距離を稼いでおかなければならない。

ということで、飯田市街までの前半はとにかく速度を殺さないように飛ばしまくり。下り基調ではあるのだが、相変わらず激しいアップダウンの繰り返し。一度速度が落ちてしまうと、登りは6km/h位しか出ない有様。下り坂では、坂道の上の方で停車し、下り地点にある信号のタイミングを計って全力加速。考えてみるとこの加速でますます膝を酷使してしまっていた気がする。上り坂では「のぼれのぼれのぼれぇー!」などと声を出していた、ような気がする。道路の交通量はかなり多い。そういえばこの道、なんとか農道とか書いてあったような気がするぞ……またか広域農道……。(後で調べたら、「伊那中部広域農道」だった) そして、せっかく時間をつぶして買ったシップは全然効かなかった。前回とは痛みの種類が違うのか。

途中で、前照灯のNRX-30が突然勝手に点滅を始めた。何じゃこりゃ?と思ったが、よくよく考えるとおそらく浸水した水が完全に抜けておらず、またタクトスイッチがショートしているのだと思われる。幸いにして交通量の多い道路なので、路面が見えないということは全くないし、HL-EL530があるので前照灯機能も問題ない。ということでしばらく放っておいたら、そのうちまた水が動いたのか消灯し、そのときスイッチを押してみたら点灯モードに入ったのでそのまま走り続ける。

結局、飯田峠の登り口に着いたのが19:00前。当然、完全に真っ暗。ここでまたぐるぐると計算。30kmを1時間半で走ったので、なんとかアベレージ20km/hは維持できたことになる。PCクローズまでは8時間で距離は62kmほど。10km/h平均でも6時間ちょっとで着けるが、6km/h平均では完全にタイムオーバー。8km/h平均でギリギリ。仮眠などで1時間消費したとすると、9km/h平均でギリギリの計算になる。というわけで、登りは出来るだけ10km/hを割らないように頑張ろう、と考える。

実を言うと、それ以前に、すぐ近くに飯田駅があるし、一端峠に入ってしまうと中津川までエスケープ不可能であることを考えると、リタイヤするならこのタイミング、という考えも頭をよぎった。膝もここまで必死に飛ばしたおかげでかなり痛む。どうしようか…。しかし、やはりここまで走り続け、残り百数十キロを残してリタイアというのはありえない。登りも、右足でかばうようにして登ればなんとかならなくもなさそうである。ということで、数分迷ったが意を決して上りに入る。

左の引き足が使えないので、ペダリングが非対称になりタイミングを取るのが難しい。無駄に蛇行することにもなり、距離も無駄になる。あえてフウフウ声を出しながら呼吸をしてペダルを踏み込む。傾斜の厳しいところでは時々ダンシングも入れるが、長続きはしない。それにしても、伊那を出てから参加者に一人も会わない。薬局に入っている間に全員に抜かれてしまったのだろうか…

ふと左側を見ると、遠くで花火大会をやっているようだ。遠すぎて音は聞こえないがよく見える。しかし写真をゆっくり撮るような余裕は無い…(どうせコンデジではまともに写らないし)。そして、上を見ると満天の星空。前も後ろも真っ暗闇の一人きり。夜中に一人で登る峠道こそブルベ。とはいえ、さすがに今回はかなり厳しい状況である。

…花火大会、やってたよね?幻覚じゃないよね?

左右左右と、まさに無限に続くかと思われるようなつづら折り。段々精神状態がおかしくなってきている。そんな中、おそらく眠気をやり過ごしているのであろう、路肩で座り込んでいる参加者の方に遭遇。特にトラブルというわけでもなさそうなのでそのまま通過したが、かなりビックリした。(後でこの方に聞いた話だが、ふと目が覚めると狐がすぐそばにいて人間の方を見ていたそうだ。荷物の中の食料を狙っていたのではないかと。)

また、自転車を押して歩いてる方にも遭遇。「メカトラですか?大丈夫ですか?」と声をかけたが、おしりが痛くなってしまったとのこと。追い越して先に行く。

20:00前、そろそろ2台目のForetrex401のログがフルになりそうな気がしたので、あらかじめ考えていた作戦通りeTrex Hをログ取りマシンとして投入することにする。残りは200kmないので、容量的には十分のはず。ハンドルマウントはForetrexと共通なのでその座を譲り、Foretrex401の方は不安定だが右側に移動してベルクロで直接ハンドルに巻く。eTrex Hが衛星を捕らえ測位開始するのを待って出発。

…するはずだったのだが、なにやらサイコン(CATEYE CC-AT200W)の速度表示が点滅している。これは確か、センサー側の電池が切れたというサインだったような気がするぞ…。ホントなんでこんな時にこんなところで…。

予備電池のCR2032は携行しているのだが、入れ替えた後に確かセンサーと本体のIDを一致させるペアリング作業が必要じゃなかったか。手順はよく覚えていないが、まあなんとかなるだろうと思って電池交換作業を行った。サイコンを台座から取り外し、適当にいじっていたら何となくID設定画面にまではたどり着いたのだが、そこから先どうやったらいいのか分からなくなってしまった。当然、そのままではサイコンは動作しない。うーむ困った。

GPSがあるからおそらく道に迷うことは無いのだが、ここでサイコンの距離計が止まってしまったら最後に1000kmを示した区間距離計を拝むのを楽しみにしていたのにそれができなくなってしまう、と割とどうでもいいことを考えていた。しかしこのときは思い及ばなかったのだが、この区間にはクイズポイントが2カ所設定されていて、それはキューシート上のポイントからの距離数でしか示されていないのだ。走行距離数が分からなければクイズポイントを通り過ぎてしまう。(というのも実は杞憂で、GPSには走行距離を示す機能もあるので、そちらを見れば実はクイズポイントも分かるのだった、ということを今になって気づいた。むしろ問題はそんなところではなかったのだ…)

色々試したがうまくいかない。そんな状態のとき、先ほど路肩で眠り込んでいた方が復活してやってきた。「すいませんが、キャットアイのサイコンセンサーのID設定方法をご存じではないですか?」と声をかけてみる。とはいえおそらく機種依存の情報なのでそうそう分かる人はいない。やはり分からないそうだった。とはいえ、停まって相談に乗っていただいた。その後も何人かの方が停まって下さった。こんな真っ暗な山道では心強いことこの上ない。

誰か知り合い(具体的には、元なるしま店員の後輩)に電話して調べてもらおうか、と思って携帯を取り出してみるが見事に圏外(docomoでも)。これでは当然ネットで調べることも出来ない。「ああもうキャットアイのサイコンなんて買わねえ!」なんて悪態をついても何も解決しない。ここでこうやって貴重な時間を潰すのも愚かなので、サイコンは諦めて先に進む事にした。ここで20分近くロスしてしまった。

ところで、相談している最中に「ブルベはPC以外での第三者からのサポートが禁止されているということは、こういう時に第三者に電話してヘルプしてもらう、というのは果たしてルール上どうなのだろうか」という事が話題になった。まあ確かにヘルプではあるのだが、それを言ったら携帯電話とネットで調べるのだって他人の手は借りてるんじゃないの、とか、情報提供だけならいいんじゃないのかとか。

で、何人かの方と一緒に走り出した。「僕は左膝が痛いんで遅いです、先にどうぞ」と伝えたのだが、結果的にトラブルで脚を休めたのが良かったのか、さっきに比べると多少楽に上れるようになった。ような気がした。結果、段々僕が先行する形になった。

サイコンが無く、GPSの高度表示も誤差が大きくてあまり当てにならない状況だったのでいつ峠に着くかよく分からなかったのだが、21:00過ぎに飯田峠に到着した。

そこにはK村さんのシトロエンが。自動車のライトはやっぱり明るかった。サイコンの件を話してみたのだが、やはり分からないとの事だった。ここも携帯は圏外。多少いじってみたが策無し。ここから多少下って次は大平峠。かなり寒かったような記憶がある。K村さんを見送って後から出発。下りとは言え、真っ暗な峠道なのでスピードは20km/hも出せない。

谷間の大平にはキャンプ場のようなものがあるらしく、明かりの点いたバンガローの中から人の話し声が聞こえた。人里離れた場所だと思っていたので多少意外だった。

大平峠への登りも淡々と走る。

飯田峠前あたりから、コーナーのたびにブルベ参加者が仮眠を取っていたり自転車が立てかけてあったりするのが見えるのだが、近づいてみると木の枝や草がガードレールに絡まっているだけ、というのを繰り返すようになっていた。目の錯覚とかそういうレベルではなく、本当に人に見えるのだ。走っている最中は意識はあってペダルは回すしハンドルは切るし、人が来れば会話も出来る。だが、人が木や草に変化すること自体をあまり変な事とは考えずに受け入れていた。夢の中では何が起きても不思議に思うことはない、みたいな感覚だろうか。

また、峠の木々や草むらの中から、なんかAMラジオのような、あるいはヘッドホンから漏れている音のような音声が流れてくる。最初は、やはり参加者が寂しさ紛れにラジオでも聞いてるのかな、くらいに考えていたのだが、走っても一緒に音が付いてくるので、これはなにか違うな、と思っていた。

そして、そうか、これが幻覚幻聴というやつか、ということに気がついた。長距離ブルベ、特にPBPではみんな体験するという、「ブルベの魔物」だそうだ。ツイッターで完走した次の日にいくらかつぶやいたらたいそう気味悪がられた。このときはこの程度だったのだが、PC10手前あたりではさらに酷いことになるのであった。

そして大平峠。

標高が高いこともあるだろうが、それ以上に雨上がりのせいなのか、非常に寒い。これから15kmの間下りなので、グローブをここまで温存してきた冬用ゴアテックスに満を持して交換。ウィンドブレーカーも着て下りへ。

結構な急勾配+急カーブの連続で、ブレーキを持つ手が段々痛くなってくる。路面が濡れている事もあり、グリップを失うのが怖くてスピードは全然出せない。相変わらず路肩のあちこちに寝ている参加者と自転車の幻覚が見える。ラジオの音も。途中手が痛くなり何度か休憩したようだ(GPSデータによると)。

途中、国道256号を横切るところで着替えている参加者に遭遇。僕もここで、あまりに寒いのでウィンドブレーカーの上にレインジャケットを着たような気がする。標高が下がっても一向に暖かくなってくれないのだ。あとシューズカバーも付けたっけか。

このあたりから先は一応人家のある中を走った。カーブもそんなに激しくないので20km/h以上出せる。しかしとにかく寒いので、どこかに暖かい飲み物を売っている自販機はないかーと思って走っていたら、発見!

早速停まって暖かいお茶を買う。もしぬるかったら泣くなあと思ったがちゃんと暖かくて助かった。

また、ここではさすがに携帯の電波が入ったので、ツイッター

というツイートを仕込んでおいた。

後続が何人か走ってくるので「暖かい自販機ありますよー」と声をかけるとやはりみんな停まって買っていた。その中に、ライトの電池が切れてしまったので一緒に走っている2人組の方がいたのだが、片方の方がどこかで眠りたいので電池が切れた人と一緒に走ってほしい、という話になったのでしばらく同行することに。そして、それは結果的に僕の完走にとって非常に重要な要素となるのであった。

眠りたいという方は途中でよさげなバス停?を見つけたので離脱、二人組での走行となった。明かりがほとんど無い道を走っているうちは当然僕が先行気味で走ったので、このときは後ろの方、後からお名前を聞いたのだがS谷さん、がどれだけ速いのか分からずに「すいません、ちょっと速すぎでしたか」などと間抜けなことを言っていたのだが、国道256号に合流して、「このくらいの明るさなら何とか走れると思います」とS谷さんが先行した途端、全く追いつけなくなってしまった。

なんで前照灯無いのにそんなスピードで走れるの?っていうような速度で下っていく。僕も35km/hで走っているはずなのに追いつけない。これが真のランドヌールというやつか…(今回のブルベはこれが多い)

そして国道256号を再び離れ、馬籠峠への登りに入るに至り、完全にS谷さんに引いてもらって走る状態に。下りでも既にルートがろくに理解できないような感じだったのだが、登りで体温が上がると、完全に思考がおかしくなってしまった。

また例の、自分が今何をやってるのかを勘違いというか忘れている状態。ツイッターにも書いたのだが、何か上の方に荷物を届けに行かなければならないので大変だとか、そんなことを考えていたような気がする。とにかく、前を走るS谷さんのうしろをよろよろと追いかけるだけ。GPSログを見ても5km/h程度しか出ていない。さぞかし迷惑だったことだろう…。

峠まで残り標高100mあたりで、どうにも走っていられなくなり「すいません、ちょっと休ませて下さい…」とS谷さんに声をかけて、そのまま濡れた路上に倒れ込んだ(といっても自転車はちゃんと寝かせておく位の本能は残っている)。やはり、上に見えたのは満天の星空だった気がする…

……

どれくらい時間が経ったのか、ハッと目が覚め、「ああ、自分はいまブルベを走っているんだった」ということを思い出す。次の瞬間考えたのは「やばい、休みすぎてS谷さんを巻き込んで遅れてしまったのではないか」ということだった。とっさに「どれくらい寝てましたか?」とS谷さんに聞いたところ、「いや、1分とかそんなもんでしたよ」という意外な答え。確かにGPSログを見ても、停まってから走り始めるまで3分程度だった。やはり無意識ブルベタイマーが脳の中で割り込みをかけているのだろうか。寝過ごして学校に遅刻しそうになっている時の精神状態だった。

意識の混濁は今回のブルベでこのあたりが最大だったような気がする。もしも一人で走っていたら、このあたりの路面で寝たり起きたりを繰り返して途方に暮れてタイムアウトしていたかもしれない。あるいは、居眠り落車か。

起きた後も引き続きヨロヨロと登り、馬籠峠に到着。時刻はちょうど0:00頃だった。といっても、自分ではここがどこで何をやっているのか認識を失っている状態。「多分ここがクイズポイントです」とS谷さんに言われ、ああそういえばそんなものも…という有様。ここでまた、後からやってきたK村さんに遭遇。ライトの話をしたような気がする。

クイズの内容だが、峠にある自販機のブランド名を答えよというものだった。しかし、2つの自販機が並んでいる…。これは一体どういうことだ。(@hayavusaさんによる証拠写真)

仕方ないので両方併記ということにしておく。

そして次は下りだが、またもやS谷さんの激下りについて行けない。GPSログでは40km/hで走ってるんだが…。最後の方はワインディングロードなので自重。10km弱を20分。

国道19号との交差点手前にコンビニがあったので休憩させてもらう。S谷さんから、「やばそうに見えるんで後は一緒に走りましょう、休みたくなったらタバコ吸ってますからいつでも休んで下さい」と、なんともありがたいやら情けないやらのお言葉をいただく。しかし実際かなりおかしい状態だったので、お言葉に甘えて当面同行をお願いする。トイレに行って(確か)缶コーヒー飲んで再出発。

合川を渡ったところまでが下りで、以降は100m程登った後、小規模なアップダウンの繰り返し。登りは例によってヘロヘロ、5km/h。下りは40km/hで頑張るがいずれにしてもついて行けない。

さて、登り終わりあたりのキューシート121番を左折後400mにあるバス停の名前、というのが次のクイズポイントなのだが、左折ポイントで何人か相談している人たちがいる。どうも、該当する場所にバス停が無いらしいのだ。間違いかと思って右に行ってみたがやっぱり無かった、という。S谷さんと僕も400m進んでみたのだが、確かにない。誰かがスタッフに電話したら問題用紙の間違いだったといわれた、という話を聞いたという人がいたので、電話してみたところ、本当に間違いだという事が判明した。どうも、間違えた場所に自転車を置いて張り紙をしておいたそうなのだ。そう言われれば確かに自転車がガードレールに立てかけてあったが、その場にいた全員「参加者が仮眠してるのかな」としか思わなかったので気づかなかったのだ。そもそも、張り紙が風で飛んでしまっていたのかもしれない。(@hayavusaさんによる証拠写真)

いずれにせよ、キューシート121番ではなく122番の間違いと分かったので先に進む。

以後、あまりにも似たような上り下りが繰り返されるので、時間の間隔がおかしくなってきた。無限ループにはまっているのではないかという奇妙な感覚。また川が近いからなのか霧が出ており、さらに幻覚がひどくなる。路傍に巨大な生物(怪物?)がうろうろしており、近づくと次々と立ち木になっていく。また、前を走るS谷さんの自転車のテールランプがどんどん巨大化していき、ダンプカーになって迫ってきたりする。しかし、頭で幻覚だと分かっているので別に慌てるわけではない。サングラスをしてるとさらに視界が悪化するので途中で外したのだが、下りの途中で手が全く離せない状態だったのでしばらく口でくわえたまま走ったりした。よだれが… とにかく、前を走るS谷さんとの差を広げないことだけを考えて走っていた。それでも最後の方は下りで完全にちぎられていた。登りの途中でなんか支離滅裂な事を口走っていたような気がする。

正しいクイズポイントで回答を記入し、やっとのことでPC10中津川に到着。走行距離920km、時刻は1:50。クローズまでの余裕は1時間ちょっとだった。

ID同期の出来なかったサイコンだが、ツイッターで反応してくれた人が何人もいたので、それらの情報を見つついろいろやったところ、ボタンを押しっぱなしではなく一度離さなければ同期状態に入らない、ということに気づき、無事動作させることができた。

S谷さんと話をしたのだが、実はスタートからずっと、ろくに眠れていない(高岡で十数分程度意識を失って、あとは何回かバス停でウトウトしただけ)という話をすると、それはまずい、信じられない、寝ないとまずいでしょう、と言われた。確かに自分でもかつて経験したことのない状態になっている事は分かっていたので、まだ寒いがこのPCで無理矢理横になっていく覚悟を決めた。ところが、PCで待機している@maruyoyoさんの車の中で先着2名まで寝かせてもらえるとのこと。今ならちょうど出発したところなので眠れますよ、というのでありがたく使わせてもらう事にした。ここでもまた幸運が一つ。もし外で防災シートにくるまって横になっていたら、結局またろくに眠れずどうしようもなくなってしまっていた可能性が高い。PCだからサポートを受けてもルール違反ではないのだが、そもそもここでまとまった仮眠を取るという計画は立てておらず、そのための準備もしていなかったのだから、自分の準備不足以外のなにものでもない。

ここでまとまって寝るとなると、さすがにS谷さんを足止めしてしまうわけにもいかないので、おそらくゴール時間も大分差が開いてしまうので話をするのもここが最後だと思い、ヘルプのお礼と先に行って下さい、という旨をS谷さんに伝え、自転車用の名刺をお渡しした。またいつかどこかのブルベで会いましょう。

で、寝ることを決めたので補給も油ものを解禁。

腹を満たして車のシートで寝かせてもらう。時間になったら起こしますけどいつにしますか、と聞かれたのだが、この先も平均時速は12km/hで計算されているとはいえ、次の区間も獲得標高が1000m以上あること(かなり心の折れる話だ…)、また今度は単独で走行しなければならないのを考えると、このPCのクローズ時刻(2:57)を1時間以上遅れて出発するのは避けたい。とはいえ、ある程度寝ないことには意味がない。ちょっと迷ったが、北海道600kmの時は道の駅で1時間弱眠ってなんとか立ち直った事を思い出し、1時間が妥協ラインかと思い、「今から1時間後(3:30位)でお願いします」と伝えた。これもまたなんというか、指定時間に人間が起こしてくれるというのはブルベにしては明らかに贅沢な話である。

正直、この期に及んでちゃんと眠れるかどうかの不安があったのだが、目を閉じてタオルを顔の上に乗せると、驚くほど外の音が遮断されている事に気づき、そして十数秒で眠りに落ちた。そして、この3日間で初めて睡眠らしい睡眠を取ったのだった。

夢を見たような気もするが内容は覚えていない。あれだけおかしなものが色々意識上に登ってきたのだから、さぞかし情報整理も大変だったと思われる。気がつくと@maruyoyoさんの声で起こされた。

お礼を言って準備をして、PC10を出発したのは3:40だった。当然まだ周囲は真っ暗。果たして間に合うだろうか…。

(4日目に続く…)